貨幣経済時代

 何かの味をごまかすかのようにガムシロップをふんだんに投入したコーヒーを飲みながらアカリはトートバックから取り出した錠剤を液体で無造作に流し込む。
「キマらねえな」
 アカリが満足げに次の錠剤に手を出すのを遮るようにラリイは
「君はマリファナに嵌っていたときのほうが幾分か健全だった気がするな」
「人間関係に溺れる君よかマシだろうよ、鞄の中の〇・〇二が泣くぜ」
「セックス大好きメンヘラとでも言いたいか」
「結局寂しくてしょうがないんだろ?」
「君がどうだか知らないが、私は生憎恵まれた家庭環境じゃなかったんだ」
「だからどうした。人の温もりを求めて何が悪い、ってか?」
 アカリは始発列車が高架の上を走ったのを感じる。飲んでいたコーヒーのプラスチック容器を道路に捨て、容器を踏みつける。それは容器に何の価値もないことを示すかのように。
「おまえがそんなんだから使い捨てられるんだよ。丁寧に説明してやろうか。紙コップを洗って何か月もお茶を飲むために再利用する人間はいないだろう。そういうことさ」
 ラリイはぐしゃりとつぶれた7&iのロゴが入ったプラスチック容器を眺める。
「社会的にヤク中よりビッチのほうが価値はあると思うがね。君は住所不定無職の犯罪者、私は穴としてでも何人にも使ってもらえている市民」
 アカリは鼻で笑って言う。
「まだまだお子ちゃまなこと。君が出自について思考ゲームをするのは勝手だが、僕に思考を押し付けないでくれよ。君の責任じゃなかったとしても、僕の責任じゃないからな」
 去ろうとするアカリにラリイは
「君だって昔はそうだったろ」
 アカリは
「今は違う」
 その日は暑い夏だった。

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