私は忘れてしまった

忘れてしまった。そこに何もない。 温かい、冷たい、暑い、寒い、嬉しい、哀しい、楽しい、つまらない…………………………。

16歳のときに自殺未遂をした。つらいから自殺未遂をしたと思うのだけど、どうやらそれは思い違いで、恵まれ幸せな環境で自身が不幸だと思い込む妄想だった。そのとき忘れてしまった。気持ち。感情。甘い。苦い。好き。嫌い。やりたい。やりたくない。

性風俗店で働くことを打ち明けた18歳の私に、父はHBVワクチンを打つように、母は客への敬意と感謝の気持ちを忘れないように教えてくれた。

たぶんこれが愛。忘れてしまったけれど、これが愛というものだろう。客にコンドームを付けることが愛。客のペニスがビクビクと脈打ち、繰り返しペニスを私のからだに出し入れするスピードが遅くなる。客にシャワーを浴びせる。部屋の掃除をする。22時にお店の人にお金をもらって、家に帰って布団に入る。9時からは学校。これがたぶん充実した生活。満たされる。嬉しい。幸せ。そうであるはずだ。

私は忘れてしまった。でもわかる。推理すれば。私がとても幸せだということが。とっくに白くなった手首のためらい傷をなぞる。死にたい。嘘。そんなのありえない、だって過去も将来も私は幸せだから。