読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

新宿

 新宿駅交差点・アルタ前。路上に停車した街宣車の上で男がマイクを握る。
「私は右派ですが、女の子を誘うときには××のホテルを予約して、レストランに行き、女の子が頼んだものは私のカードで落とすようにもちろん設定している。なぜこんな話をするのかと言うと、今、辺野古反対を叫んでいる人たち、ここ(新宿)にもホームレスみたいな人がいますけど、そんなホームレスに毛の生えたような奴らが、辺野古反対を叫んでいる。ホームレスに毛の生えたような人間を彼氏にしたいと言う女の子がいると思いますか。私は全体の8%くらいだと思う。残りのほとんどは、そうは思わないんじゃないか」
 楽単な必修科目の教授の話を聞くときくらいの感度で話を聞いていたので、だいたいこんな話を男はしていたと思う。アルタ前のスクランブル交差点の歩行者信号が赤を現示していたため立ち止まった街を行き交う人たちは、エレベーターに乗り合わせたときに階数表示を眺めるような視線で、みな一様に歩行者用信号機を眺め、青に変わるのを待っていた。
 1861年、イギリスの社会学者 Maine, Sir Henry James Sumner は著書『Ancient Law』の中で「身分から契約へ」とのフレーズを残した。これは生まれた時点で決まる貴族が上、庶民が下と絶対的に分かれていた垂直型社会から、「私30円持ってる。パン欲しい」「私30円欲しい。パン売る」への平行的社会――近代社会――の違いを示した言葉である。
 それはともかく、信号が青になったので、私はあまりきれいな見た目をしていないおじさんと交差点を渡る。街宣車の横を通り過ぎてホテル街へ向かう。なぜならそれは身分ではなく、契約によるものだからだ。

 街宣車の後ろを警官付きでレインボーフラッグを掲げた集団が通っていくのがシュールな新宿駅東口だった。

広告を非表示にする