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薬物に溺れるな

JR新宿駅
東口改札へ抜ける途中に交番がある。その先にの壁に目を向けると、警視庁のポスターが貼ってある。
「薬物に溺れるな ――その『一度だけなら』で仕事も家族も人生までも水の泡」

シャブじゃなくてOTCの話をしよう。
鎮咳去痰薬を風邪の症状緩和のため以外に利用されていることを私は知っている。大量に摂取することで覚せい剤と似たような効果が一時的に得られる。彼ら彼女らは不良でも半グレでもない、成績優秀な中高生だった。いたって「ふつう」の。

「悩みがあれば周りの大人に相談しましょう」
よく使われるフレーズ。もし周りの大人に相談することで痛みを伴わず問題を根本から解決できるのなら、彼ら彼女らは錠剤を一度に30錠流し込んで唾液腺を潰し急性カフェイン中毒に震え身体的依存をつけながら、コストパフォーマンスの悪いわずかな覚せい剤的効果を求めはしないだろう。薬物の誘惑に負けたわけではなく、彼ら彼女らは小さい頃から、大人を信用できないことを体感してしまっている。

家庭環境だったり、学校内やバイト先でのトラブルだったり。彼ら彼女らは複雑に絡まりあった生きづらさをほどけなくしている。それはこれからも絡まっていく。行政や学校、医療が介入してひとつひとつ絡まった糸を解すことで、少し見える世界は変わってくるはずだ。3年後の自分はもうすでにこの世にはいないだろうとか、明日を生きるために錠剤を流し込み手首を切る。「なんでそんなこと思うの」「なんでそんなことするの」。複雑に絡まった糸によって、どれが原因で生きるのに他の人より苦痛を感じなければいけないのか、それが解決すればHappyなのか。そんなことはわからない。ただ彼ら彼女らは「対症療法で今の痛みを少しでも緩和したい」セルフメディケーションの一貫として自傷行為を行う。

性犯罪の被害に合い、怖くて電車に乗れなくなった人がいる。男性恐怖症で、以前のような生活を送れなくなった人がいる。そういった人たちに「電車で痴漢に合う確立は0.x%だからめったにないよ」とか、「日本にいる男性のうち、性犯罪で逮捕された人間はわずか0.0x%だからそんなに怯えなくていいよ」と言ったところで、彼女は明日から電車に乗るだろうか。乗らない。いくら数字で、確立で示されたところで、その0.x%(あるいは0.0x%)に当たったのは事実として存在する。確立の話をすれば、一度性犯罪被害にあった人が連続してまた性犯罪被害に合う率は、性犯罪被害にあったことのない人より少ないはずだ。数字上はそうでも、体が動かない。

自傷行為の根本は「誰もこの底から救い出してくれない」絶望感にある。彼ら彼女らは過去の経験から「大人」に裏切られたという思いがある。誰も信用できない、もう誰にも悩みを話したくない、アレはもう嫌だ。吐きそう。もちろん、「良い大人」がいることは頭では理解している。しかしまた「悪い大人」がいることも経験則から理解している。仮に「良い大人」にあたったところで、3日で問題が解決に向かうわけがなく、当分は今まで通り精神をすり減らして生活しなければならない。「悪い大人」にあたったときのことを思いだすと、SOSのサインすら小さくなってしまう。もう助けなんていらない。厭世感につつまれた暗い社会をなんとかあと一日生きるため、彼ら彼女らは錠剤を、カミソリを持つ。

「仕事も家族も人生までも水の泡」なんてことはない。それはセルフメディケーション =自己治療= の一つだから。でも私はあなたが少しでも苦しみから解放されてほしい。もはや手段は問わない。なんらかの行動を起こしてほしいのだ。

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